本稿では、船井総研の能登谷さんと荒井さんが動画内で解説した内容をもとに、税理士が補助金申請支援に取り組む際のポイントを整理します。
補助金申請支援は、申請書を作成するだけの業務ではありません。顧問先へのヒアリング、補助金の選定、申請準備、AIを活用した書類作成、さらに税務顧問などの継続契約につなげる商品設計までが重要です。
本記事では、動画で紹介された会計事務所の補助金支援への参入方法や、AI・ヒアリングシートを活用した業務効率化、単発業務で終わらせないための考え方について解説します。
▼本コラムの内容は下記動画からもご覧いただけます
《前編》
《後編》
税理士の補助金申請支援は新しいサービスになり得る
税理士が補助金申請支援に取り組む場合、申請書の作成だけに注目するのではなく、顧問先の経営課題を把握し、補助金を活用した事業計画を整理することが重要です。
動画内で能登谷さんと荒井さんは、補助金申請支援の流れとして、次の4つを紹介しています。
- 申請前の商談
- 補助金の選定
- 申請準備
- 申請書の作成
これまで補助金支援に取り組んだものの、途中でやめてしまった会計事務所もあるといいます。その背景には、補助金の種類や手続きを一から調べることで、業務量が増え、採算が合わなくなる問題がありました。
一方で、ヒアリング項目の整理やAI・ツールの活用によって、業務を標準化しやすくなります。補助金申請支援を会計事務所の新規サービスとして設計する余地があるというのが、動画で示された考え方です。
Q. なぜ今、税理士が補助金申請支援に取り組むのでしょうか?
動画では、会計業界の経営課題として、次の3つが挙げられています。
- 採用難
- 税理士法人の増加
- 新設法人の増加
競争環境が厳しくなるなか、税務顧問だけでは事務所間の違いを打ち出しにくい場合があります。そのため、顧問先の経営課題に対応する新しいサービスを整備し、差別化することが重要になります。
荒井さんは、補助金・助成金の支援を求める中小企業がいる一方で、税理士側で十分に対応できていない状況があると説明しています。
税理士が補助金申請支援を提供できれば、既存顧客への付加価値提供だけでなく、新規顧客との接点づくりにもつながる可能性があります。
ただし、税理士が対応できる業務範囲は法令等で定められています。補助金の伴走支援や計画策定のアドバイスは可能ですが、申請代行(行政書士法)や労務関連助成金(社労士法)との兼ね合いに留意し、支援内容を整理することが重要です。
Q. 補助金申請支援では、最初に何をすればよいですか?
補助金申請支援というと、申請書や事業計画書の作成から始めるイメージがあります。しかし、動画で重視されているのは、その前段階にある顧問先へのヒアリングです。
月次面談などの場で、次のような情報を確認します。
- どのような投資を考えているのか
- 現在どのような課題を抱えているのか
- いつまでに投資する予定なのか
- どの程度の投資を予定しているのか
- 新規事業への進出を考えているのか
こうした情報を集めることで、顧問先が補助金を活用できる可能性を把握できます。
補助金の知識が十分でない担当者であっても、ヒアリング項目や質問例が整理されていれば、顧客のニーズを拾いやすくなります。
Q. ヒアリングシートはどのように活用できますか?
動画では、補助金申請の前段階で使用するヒアリングシートが紹介されています。
ヒアリングシートには、次のような内容が整理されています。
- ヒアリングすべき項目
- 各項目を聞く目的
- 顧客への切り出しトーク
- 追加で確認する質問
- 伝えるべき事項
- 伝えてはいけない事項
これにより、担当者が毎回ゼロから質問を考える必要がなくなります。
補助金申請支援を属人的な業務にしないためには、担当者の経験や知識だけに依存しない仕組みづくりが重要です。ヒアリングシートを活用することで、担当者間の業務品質をそろえ、経験の浅いスタッフでも取り組みやすくできます。

Q. 補助金はどのように選定しますか?
ヒアリングを行うと、顧客の状況に合いそうな補助金の候補が出てきます。
ただし、候補が表示されたからといって、すぐに一つへ決められるとは限りません。補助金ごとに目的や補助金額などが異なるため、顧客の計画との相性を確認する必要があります。
荒井さんは、顧客が実現したい計画や事業の方向性に合わせて、適した補助金を提案していく考え方を説明しています。
重要なのは、補助金を先に決めて顧客の計画を当てはめるのではなく、顧客が実現したいことを把握したうえで、適した補助金を検討することです。

Q. 補助金が決まった後は、何を聞けばよいのでしょうか?
最初のヒアリングでは、顧客がどのような投資や事業を考えているのかを確認します。
補助金が決まった後は、その補助金の目的に沿って、さらに詳しい情報を聞き取ります。
動画では、新事業進出補助金を例に、次のような情報を確認する必要があると説明されています。
- どのような新規事業に進出するのか
- なぜ新しい事業に取り組むのか
- その市場にどのような成長見込みがあるのか
- 既存事業と新規事業にどのような関係があるのか
補助金の種類ごとに、必要な情報や確認項目を毎回調べていると、担当者の負担は大きくなります。
あらかじめ補助金ごとのヒアリング項目を整理しておけば、聞き取り業務の標準化や時間削減につなげやすくなります。
Q. AIは税理士の補助金申請支援でどのように使えますか?
動画では、AIを申請書作成だけでなく、その前段階から活用する方法が紹介されています。
基本的な流れは次のとおりです。
- ヒアリングシートに顧客情報を入力する
- シートをPDF化する
- 専用ツールに読み込ませる
- 入力内容をAIで確認する
- 申請書の骨子を作成する
- 不足している情報を抽出する
- 顧客と追加内容を詰める
AIは申請書の案を作成するだけでなく、情報が不足している部分や、項目同士の整合性を確認するためにも活用できます。
ただし、AIにいきなり文章を書かせればよいわけではありません。
能登谷さんは、AIに入力する前に、何を聞くべきか、聞いた内容をどのように整理するか、どの情報を申請書に反映するかを設計することが重要だと話しています。
つまり、AI活用の前提には、質の高いヒアリングと情報整理があります。
Q. 補助金申請支援の業務時間は削減できますか?
補助金申請では、書類を書く時間だけでなく、次のような準備にも時間がかかります。
- 補助金の種類を調べる
- 聞くべき内容を確認する
- ヒアリング内容を整理する
- 不足情報を確認する
- 申請書の構成を考える
動画内では、こうした工程にツールやAIを組み込むことで、申請準備にかかる時間を大幅に削減できる可能性が説明されています。
また、補助金によっては申請書作成に数十時間かかることがある一方、紹介された仕組みを使えば、短時間で申請書の案を作成できる場合があるとされています。
ただし、削減できる時間や効果は案件や前提条件によって異なります。
Q. 補助金申請支援がうまくいかない原因は何ですか?
動画では、補助金支援に取り組んだものの、採算が合わず、事務所が疲弊するケースが紹介されています。
主な原因は、初期設計が不十分なまま案件を受けてしまうことです。
業務範囲やゴールを決めずに始めると、担当者が案件ごとに次の作業を行うことになります。
- 公募要領を調べる
- 補助金の種類を調べる
- 申請手続きを確認する
- 顧客への質問を考える
- 申請書の構成を作る
その結果、業務量に対して人件費がかかりすぎ、収益化が難しくなる可能性があります。
税理士が補助金申請支援に参入する場合は、開始前に以下を決めておく必要があります。
- どの顧客を対象にするか
- どの補助金を扱うか
- どこまで支援するか
- 誰が担当するか
- どの工程を標準化するか
- AIやツールをどこで使うか
- 申請後にどのサービスへつなげるか
Q. 補助金申請支援を継続契約につなげるには?
補助金申請は、申請1件ごとのスポット業務になりやすいという特徴があります。
申請時期に業務が集中し、申請が終わると売上が続かない状態になれば、補助金支援を安定した事業にすることは難しくなります。
そこで、荒井さんは「補助金を入り口商品とする」商品設計の重要性を説明しています。
例えば、新規顧客に対しては、次のような流れが考えられます。
既存顧客に対しては、補助金申請支援を追加サービスとして提供し、顧客満足度の向上や財務面の継続支援につなげることが考えられます。
動画では、補助金申請支援をきっかけに、スポット収入とストック収入の両方を得る商品設計が紹介されています。
補助金申請を単発の書類作成で終わらせず、顧客との継続的な関係づくりの入り口として考えることが重要です。

Q. 補助金申請支援は会計事務所の差別化になりますか?
税務顧問や記帳代行など、従来型のサービスだけでは、競合との違いを打ち出しにくい場合があります。
動画内では、補助金申請支援を新しいサービスとして追加することで、会計事務所の差別化につなげる考え方が示されています。
補助金申請支援を通じて、次のような価値を提供できます。
- 顧問先の投資計画を把握する
- 経営課題を整理する
- 利用可能性のある補助金を選定する
- 事業計画の整理を支援する
- 申請準備を進める
- 申請後の継続支援につなげる
「補助金を申請できます」と伝えるだけでなく、「顧客の経営計画を理解し、継続的な支援まで行える」という価値を示すことが、差別化につながります。
税理士が補助金申請支援を始める際のチェックポイント
最後に、動画内の内容をもとに、取り組み前に確認したいポイントを整理します。
-
1. 顧問先のニーズを把握する
投資計画、経営課題、投資時期、投資額などを確認します。 -
2. ヒアリングを標準化する
担当者の経験だけに頼らず、質問項目や深掘りの方法を整理します。 -
3. 顧客の計画に合う補助金を選ぶ
補助金ありきではなく、顧客の実現したい計画を起点に選定します。 -
4. AIを前段階から活用する
申請書の作成だけでなく、不足情報の抽出や整合性確認にも活用します。 -
5. 収益モデルを設計する
補助金申請の報酬だけでなく、申請後の支援や税務顧問などへの展開を考えます。 -
6. 業務範囲を確認する
税理士法・行政書士法・社労士法などの法令や認定支援機関制度を確認し、自事務所が対応する範囲(助言・支援・申請代行等)を明確にしておきます。
まとめ
税理士が補助金申請支援に取り組む際は、申請書作成だけに注目するのではなく、以下の流れ全体を設計することが重要です。
- 顧問先へのヒアリングでニーズを発見する
- 顧客の計画に合う補助金を選定する
- 補助金の目的に沿って追加ヒアリングを行う
- AIやツールで申請準備を効率化する
- 業務を標準化し、属人化を防ぐ
- 補助金を入り口商品として設計する
- 申請後の継続支援や税務顧問につなげる
動画内では、補助金申請支援を会計事務所の新しい成長ステップの一つとして捉え、ヒアリングシートやAIを活用することで、経験や人員に制約がある事務所でも取り組みやすくする考え方が紹介されています。
補助金申請支援への参入や、既存サービスとの組み合わせ、業務の標準化・収益化を検討している場合は、自事務所の顧客層や体制に合わせて商品設計から整理することが重要です。
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