A.生前対策の提案を自然に行うコツは、毎月の巡回監査や決算報告を「現状確認」の場から、「将来のリスク診断」の場へと変えていくことです。具体的には、数字確認・節税額の提示ではなく、このまま相続が発生した場合の税額シミュレーションを定期的に提示することで、生前対策としての節税対策および遺言などへの意識持ってもらうことが受任への最短ルートになります。
会計事務所にとって、顧問先への生前対策提案はニーズが発生していない中で、押し売りになりそうで踏み出せないという意見をよくお聞きします。しかし、お客様は信頼できる担当者(先生)から提案してほしいと考えているケースも少なくありません。ここでは、自然に且つ高確率で受任に繋げるための戦略的アプローチを詳説します。
①提案の「きっかけ」を仕組み化する(入り口の設計)
唐突に「相続対策をしませんか?」と切り出すのではなく、既存の業務フローの中に「相続」を組み込むことが最重要ポイントになります。法人の決算報告や個人の確定申告の際、付随サービスとして「もし今、代表者に万一のことがあったら」という簡易シミュレーションをセットにします。自社株評価や主要な不動産評価の概算を作成し、納税予測額を数字で見せることで、顧客は初めて「自分事」として相続を捉え始めます。
また、ライフイベント(孫の誕生、自宅の改修、定年退職)に合わせて、贈与税の非課税枠の活用や法人化提案、生命保険の活用といった情報をニュースレターなどで情報提供することも重要です。
②「節税」ではなく「家族の安心」をベネフィットに据える
受任に繋がらない最大の理由は、税理士事務所側が節税の話に終始してしまうからです。お客様が真に求めていることは節税だけなく、親族間で関係性や承継問題など、多岐にわたるケースがほとんどです。
税金がいくら安くなるかよりも、残される親族(お子様たち)が揉めないための争族対策です。遺言書の作成支援や家族会議への立ち会いなど、感情面に寄り添う姿勢を見せることで、顧問報酬とは別のコンサルティング案件として受任しやすくなります。
また、特に不動産を複数所有している資産家にとっては、不動産の出口戦略も大きなテーマになります。生命保険の活用や資産の流動化を具体的に提案し、「財産を減らさずに次世代へ渡す仕組み」を提供できる唯一無二としての立ち位置を確立することが重要です。
目先の節税だけでなく、配偶者の相続(二次相続)まで含めたトータルの税負担を提示することで、「今、対策をしておかないと、次世代でこれだけの損失が出る」という長期的な不利益を回避するベネフィットは、強い動機付けになります。
③心理的ハードルを下げる「フェーズ別受任」の徹底
一気に数十万円、数百万円のコンサルを受任しようとせず、松竹梅の段階を踏んで契約へ導きます。
ステップ1)個別相談・詳細シミュレーション(フロントエンド)
まずは数万円程度の低価格、あるいは顧問料の範囲内で詳細な「資産診断報告書」を作成します。ここで圧倒的な質の報告書を提示し、現状の課題(リスク)を全て洗い出します。
ステップ2)実行支援コンサルティング(バックエンド)
洗い出した課題に対し、「遺言書作成サポート」「生前贈与スキームの実行」「不動産組み換え」などを個別プロジェクトとして受任します。
ステップ3)継続的なメンテナンス契約
対策を実行して終わりではなく、毎年の税制改正や資産状況の変化に合わせてプランを見直す「相続顧問」へと移行させ、ストック収益化を図ります。
会計事務所が生前対策を自然に提案する鍵は、顧客の潜在的な不安を、数字で可視化してあげることに尽きます。顧客は対策が必要だとは薄々感じていても、その緊急性に気づいていません。担当者が自信を持って「将来のために今、これが必要です」と言えるツールと仕組みを事務所内に構築することが、受任件数倍増への最短距離となります。



