なぜ、あなたの事務所の「財務・経営支援」は数件で止まってしまうのか?ー職員でも高単価で回せる「実務の標準化(製販分離)」の極意ー

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執筆者増木 悠人
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「顧問先の未来のために、もっと踏み込んだ支援がしたい」。そう思いながらも、目の前の記帳や申告に追われていませんか。あるいは、財務・経営支援を始めたのに、なぜか3件目あたりで止まっていませんか。この記事を読めば、その理由と、職員でも回せる仕組みの作り方がわかります。

AI時代の到来と、記帳作業代行モデルの「静かな終焉」

まず結論からお伝えします。「過去会計(税務申告のために過去のデータを処理する仕事)」だけでは、顧問料はこれからも下がり続けます。逃げ場はありません。

自動化システムが進む2026年、従来の「記帳代行」が直面する限界

所長先生、正直に伺います。この5年で、顧問料の相場は上がりましたか。

多くの事務所で、答えは「いいえ」だと思います。むしろ下がっています。

理由は明確です。クラウド会計、AI仕訳、スキャニング(紙の領収書や請求書をデータに変換する技術)が急速に進化しているからです。

  • 銀行明細やクレジットカード明細の自動取込
  • レシートをスマホで撮るだけの自動仕訳
  • AIによる勘定科目の自動判定

こうした技術によって、かつて職員が2時間かけていた入力作業が、今では20分で終わることも珍しくありません。

つまり「記帳代行(作業を代わりに行うこと)」そのものが、コモディティ化(どの事務所でも同じサービスになり、価値が下がってしまうこと)しているのです。

どこに頼んでも同じ品質のものが、より安く手に入る。それが今の記帳代行の現実です。月額1万円、2万円という価格競争は、この延長線上にあります。

これからの事務所の存続を脅かす「人時生産性(1時間あたりの生産性)」の壁

ここで、少し数字を見てみましょう。

年商1.5億円から3億円くらいの事務所は、多くの場合10名前後の組織になります。この規模になると、必ずと言っていいほどぶつかる壁があります。それが「人時生産性(従業員1人が1時間働いて、どれだけの粗利を生み出しているか)」の壁です。

例えば、職員の人件費と稼働時間を計算してみてください。

  • 職員1人の年間稼働時間:約1,800時間
  • 年間人件費(社会保険料込み):約500万円
  • 時間単価:約2,800円

この職員が記帳代行だけを担当していた場合、生み出せる粗利は時間単価とほぼ同じ水準にとどまります。ところが、事務所を維持するには、家賃や採用コスト、所長自身の利益も含めて、実際には時間当たり5,000円〜6,000円の生産性が必要になるケースが多いのです。

つまり、記帳代行という「作業」だけを売っている限り、人時生産性の壁は突破できません。組織が大きくなればなるほど、この壁は事務所経営そのものを苦しめます。

「身近な経営の相談相手」を求める中小企業経営者との巨大なミスマッチ

一方で、顧問先の経営者は何を求めているでしょうか。

「今月の試算表ができました」という報告だけを待っている社長は、実はほとんどいません。

  • 「このままの資金繰りで、半年後は大丈夫か」
  • 「銀行はうちの会社をどう見ているのか」
  • 「来期、人を採用していいのか」

こうした問いに答えてくれる相手を、社長は探しています。ここに、大きなミスマッチがあります。

事務所は「過去の記録」を届け、経営者は「未来の判断材料」を求めている。この差こそが、記帳代行モデルが静かに終わりを迎えている本当の理由です。

だからこそ、高単価な「未来会計(財務・経営支援)」へのシフトは、避けて通れない道なのです。

なぜ財務・経営支援を始めても「2〜3件」で頭打ちになるのか?

はっきり申し上げます。財務・経営支援が広がらないのは、所長先生おひとりで抱え込んでいることと、職員が「高い報酬をもらう自信がない」と感じていることが原因です。

所長先生が「すべての会社の財務アドバイザー」を務める物理的限界

多くの事務所で、財務・経営支援は所長先生自らが担当しています。

最初の1社、2社は、情熱と経験でなんとかなります。しかし3社目、4社目となると、物理的な時間が足りなくなります。

1社あたり月1回、2時間の面談を行うとします。10社受注できたとしても、それだけで月20時間。資料作成の時間を含めると、優に40時間を超えます。

所長先生の時間は、有限です。これでは、どれだけ理念があっても、事業として広がりません。

「サービス定義(提供する内容やルールの明確化)」がないために発生する属人化

さらに問題なのは、財務・経営支援の中身が「所長先生の頭の中」にしかないケースです。

  • 何を、どこまで、いくらで提供するのか
  • どの資料を、どの順番で見せるのか
  • 面談で、何を話すのか

これらが言語化されていないと、財務・経営支援は「オーダーメイドのコンサルティング」になってしまいます。

オーダーメイドは、聞こえは良いものです。ただ、事業としては非常に脆いものです。所長先生にしかできない仕事は、いなければ止まってしまうからです。属人化(特定の人にしかできない状態になること)は、成長の最大の敵です。

「月額5万円〜10万円の報酬をもらうのは怖い」とビビってしまう職員のマインドブロック

もう一つ、見落とされがちな理由があります。それは職員の心理的な壁です。

記帳代行を担当してきた職員に、「この顧問先に財務・経営支援を提案してほしい」と伝えると、多くの場合こう返ってきます。

「私が、月5万円も10万円も追加でいただく提案なんて、できません」

これは能力の問題ではありません。マインドブロック(心理的な思い込みによる制限)の問題です。

  • 自分にそこまでの価値を提供できるか、自信がない
  • 断られたら気まずい、という恐れ
  • そもそも「何を話せばいいか」がわからない

この不安を解消しないまま「営業してこい」と言っても、職員は動けません。ここに、2〜3件で頭打ちになる本当の理由が隠れています。

壁を突破する「製販完全分離(作業と営業・支援を分けること)」の極意

ここで、結論をお伝えします。突破口は「製(作業)」と「販(価値の提供)」を、完全に切り離すことです。

税務顧問(価値に対する提供)と記帳代行(単純な作業)を脳内で切り離す

まず所長先生ご自身の頭の中で、はっきりと線を引いてください。

  • 記帳代行:単純作業。誰がやっても同じ結果になるべきもの
  • 財務・経営支援:価値提供。経験と対話力が問われるもの

この2つを同じ職員が、同じ時間の中で、なんとなく両方やろうとするから、どちらも中途半端になります。

製造業に例えるとわかりやすいかもしれません。工場のライン作業(製造)と、営業担当が顧客と向き合う仕事(販売)は、通常まったく別の人材が担当します。会計事務所も同じです。作業と支援を、組織として分ける。これが「製販分離」です。

入力作業(製)をクラウド・AIスキャン・パート職員へ徹底的に外注・仕組み化するステップ

製販分離の第一歩は、「製」側を徹底的に軽くすることです。

具体的なステップは、次の通りです。

  • 領収書・請求書は、スキャンアプリで自動読み取りにする
  • 通帳・カード明細は、クラウド会計に自動連携する
  • 入力の最終チェックのみ、パート職員が担当する
  • 正社員は、入力作業そのものから完全に離れる

ある事務所では、この仕組み化によって、正社員1人あたりの記帳関連の作業時間を、月40時間から月8時間まで削減しました。

浮いた32時間。これが、財務・経営支援に使える「新しい時間」です。仕組みを作らずに「支援もやってください」と言うのは、時間が有限である以上、無理な話なのです。

現場の作業を削ぎ落として初めて生まれる「経営者と向き合う時間」

作業を削ぎ落とすことは、目的ではなく手段です。

本当の目的は、削減した時間を使って、職員が経営者と向き合う時間を持つことです。

  • 月次の試算表を「届ける」のではなく「一緒に読む」時間
  • 資金繰りについて「聞かれたら答える」のではなく「先回りして提案する」時間

この時間があって初めて、財務・経営支援という「価値」が生まれます。作業から解放されなければ、この時間は永遠に生まれません。

未経験スタッフでも高単価な財務報告ができる「仕組み(システム)」の共有

では、生まれた時間で、職員は何をすればいいのでしょうか。まず、はっきりお伝えします。難しい財務理論を教え込む必要はありません。誰でも同じ資料を出せる「型」を作れば、職員でも財務・経営支援は回せます。

共通システム(ビサイドなど)を所内インフラにする本当のメリット

財務・経営支援を仕組み化するうえで、有効なのが共通システムの導入です。ビサイドのようなクラウドツールを、事務所全体の「インフラ(誰もが使う共通基盤)」にすることが鍵になります。

なぜ重要なのでしょうか。それは、誰が担当しても、同じ品質の資料を、同じ時間で作れるようになるからです。

  • 資料作成にかかる時間が、ベテランも新人も大きく変わらない
  • 出力される資料のフォーマットが統一されている
  • 所長先生がチェックする際も、見るポイントが決まっている

システムが個人のスキルの差を吸収してくれます。だからこそ、経験の浅い職員でも、高単価なサービスを提供できるようになるのです。

「実態B/S(銀行が評価する本当の貸借対照表)」や「CF(お金の流れ)シミュレーション」の標準化

財務・経営支援の核となる資料は、主に2つです。

1つ目は「実態B/S(銀行目線で見た、本当の貸借対照表)」です。役員貸付金や不良在庫、含み損などを反映し、銀行が実際にどう評価しているかを可視化した資料です。

2つ目は「CFシミュレーション(キャッシュフロー、つまりお金の流れの将来予測)」です。半年後、1年後に、口座の残高がどう推移するかを見える化します。

この2つの資料を、毎月同じフォーマットで、システムから自動出力できるようにする。これが「標準化」です。標準化ができれば、資料作成に頭を悩ませる必要はなくなります。

教えるコンサルではなく「意思決定の場を作る」ファシリテーター(中立な進行役)になること

ここで、多くの所長先生が誤解しているポイントをお伝えします。

財務・経営支援というと、「経営理論を教える」ことだと思われがちです。しかし、それは違います。

本当に求められているのは、ファシリテーター(会議を中立な立場で進行し、参加者の意思決定を助ける役割)としての振る舞いです。

  • 実態B/Sを見せながら「この数字、社長はどう感じますか」と問いかける
  • CFシミュレーションを見せながら「半年後、資金は足りそうですか」と問いかける

答えを教えるのではなく、社長自身に「気づいてもらう」。この会議の型さえ身につければ、財務理論に詳しくない職員でも、十分に価値を提供できます。

月次モニタリング会議の標準的な流れは、次のようになります。

  1. 実態B/Sを提示し、前月からの変化を確認する(5分)
  2. CFシミュレーションを提示し、半年後の見通しを共有する(10分)
  3. 気になる数字について、社長に問いかける(15分)
  4. 次月までのアクションを、一緒に決める(10分)

この40分の型を覚えれば、未経験の職員でも会議を回せるようになります。

職員の財務支援  仕組み化の「型 」

職員の心を動かす「ミッション定義」と「小さな成功体験の積ませ方」

率直にお伝えします。人は理屈だけでは動きません。「何のためにやるのか」という想いと、小さな成功体験が、職員を動かします。

単なる売上目的ではない「3億円企業創出日本一」といったミッションの明文化

「顧問料を上げたいので、財務支援をやってください」

こう伝えても、職員の心は動きません。売上のための提案は、職員にとっては「やらされ仕事」にしかならないからです。

大切なのは、事務所としてのミッション(果たすべき使命)を、明文化することです。

  • 「顧問先から年商3億円企業を100社創出する」
  • 「地域で一番、社長に頼られる事務所になる」

こうしたミッションを掲げることで、職員は「顧問料を上げる仕事」ではなく「顧問先の未来を作る仕事」として、財務・経営支援を捉え直すことができます。

財務・モニタリング契約を獲得した際の「ワクワクする報奨金インセンティブ制度」

理念と同時に、わかりやすい報酬設計も欠かせません。

例えば、次のようなインセンティブ制度(成果に応じた報奨金の仕組み)です。

  • 財務・経営支援の契約を1件獲得したら、一時金3万円
  • 月額報酬のうち、一定割合を担当職員のボーナスに反映
  • 半期に一度、獲得件数トップの職員を表彰し、食事会を開く

例えば、契約1件につき3万円の一時金なら、月5件獲得すれば15万円です。パート職員の月給に匹敵する金額が、追加で手に入ります。この実感が、次の提案への一歩を後押しします。

最初は「最も付き合いの長い顧問先1社」を無償でもいいからとことん救い、実績をつくる

最後に、最も大切な一歩をお伝えします。

いきなり全顧問先に営業をかける必要はありません。まずは、最も付き合いの長い1社を選んでください。

その1社に対して、無償でもいいので、実態B/Sを作り、CFシミュレーションを見せ、経営会議を開いてみてください。

  • 「資金繰りの不安が減った」と社長に感謝された
  • 「こんなに会社のことを見てくれる事務所だとは思わなかった」と言われた

こうした一次体験が、職員に「自分にもできる」という自信を与えます。理屈より先に、成功体験を1つ作る。これが、次の展開への最短ルートです。

職員を動かす3つのステップ

【まとめ】今日からできること。まずは「自社の未来計画」を作る覚悟を

最後に、一番大事なことをお伝えします。最後の鍵は、所長先生ご自身の覚悟です。

本日のまとめ(財務・経営支援シフトを完遂する3つのエッセンス)

ここまでの内容を、3つのエッセンスに整理します。

  • 記帳代行という「作業」は、徹底的に仕組み化し、時間を生み出す(製販分離)
  • 実態B/SとCFシミュレーションを標準化し、誰でも回せる「型」を作る
  • ミッションと報奨金、そして最初の1社の成功体験で、職員の心を動かす

この3つが揃って初めて、財務・経営支援は「所長先生1人の情熱」から「事務所全体の事業」へと生まれ変わります。

職員の退職や「できない理由」を恐れず、ぶれずに進む所長の覚悟

正直にお伝えします。この変革を進めると、必ず抵抗が起きます。

  • 「今のままでいいのに、なぜ変える必要があるのか」という声
  • 変化についていけず、退職を選ぶ職員が出ることもある

こうした声を恐れて、変革を止めてしまう所長先生を、これまで何人も見てきました。しかし、記帳代行モデルの先に未来がないことは、すでに数字が示しています。

痛みを恐れず、ぶれずに進む。これができるかどうかが、5年後の事務所の姿を大きく分けます。

【今日からできる最初の一歩】:自事務所の5年後の計画をつくり、全員に発表する

最後に、今日からできる、たった1つの行動をお伝えします。

それは、所長先生ご自身の事務所について、「自社財務監査(自分の事務所の数字を、顧問先と同じように厳しく見直すこと)」を行い、5年後の計画を作ることです。

そして、それを全職員の前で発表してください。

顧問先に変革を求めるなら、まず自分の事務所が変わる姿を見せる。これほど説得力のあるメッセージはありません。

この記事のポイント

  • 記帳代行は、AIやクラウドの進化によりコモディティ化し、顧問料下落が続いている
  • 年商1.5億〜3億円規模の事務所は、「人時生産性」の壁に必ずぶつかる
  • 財務・経営支援が広がらないのは、所長先生の抱え込みと、職員のマインドブロックが原因
  • 突破口は「製販分離」。作業を仕組み化し、実態B/SとCFシミュレーションを標準化すること
  • 最後の鍵は、所長先生自身の覚悟。まず自事務所の5年後の計画を作ること

次にやるべきこと(TODO)

今すぐ、自事務所の「実態B/S」を作ってみてください。顧問先に見せる前に、まず自分の事務所の本当の財務状況を、ご自身の目で確認することから始めましょう。

執筆者 : 増木 悠人