
未経験者が活躍している事務所を見ると、
「規模が大きいから、育成体制が整っているのだろう」
「教育に人を割ける余裕があるから育つのだろう」
と思われることがあります。
しかし、未経験者活用の成否は、研修制度だけでは決まりません。
育成の手前にある「受け入れ態勢」と「採用」で、勝負の大半が決まっています。
まず、受け入れ態勢です。
体制面では、少なくとも次の準備が必要です。
・最初に担当する業務
・質問や確認をする相手
・1カ月後、3カ月後の到達目標
・未経験者でも扱えるように標準化された業務
ただし、それ以上に重要なのが、事務所側のスタンスです。
未経験者が一人前の戦力になるまでには、少なく見積もっても2年程度はかかります。
その間、既存社員には、業務を教え、確認し、フォローする負担が発生します。
つまり、未経験者を採用した直後は、事務所が楽になるどころか、今まで以上に大変になる可能性があります。
未経験者活用は、今の人手不足を埋めるための施策ではありません。
2年後、3年後の事務所を支える人材を育てるための、長期的な投資です。
一時的に現場の負担が増えても、将来の成長のために育て切る。
経営者と既存社員が、その覚悟を共有できているかどうかが、最も重要な受け入れ態勢です。
次に、採用です。
未経験者活用がうまくいっている事務所は、採用の段階から違います。
未経験者は、実務経験ではなく、学習意欲、素直さ、継続力、質問する力など、将来のポテンシャルを見極めて採用する必要があります。
しかし、ポテンシャルの高い人材を選ぶには、比較できるだけの応募者母数が必要です。
船井総合研究所が税理士事務所を対象に実施したアンケートでは、年間の採用コストは、売上1億円未満の事務所で約44万円、売上1億円から3億円の事務所で約102万円、売上3億円以上の事務所で約964万円でした。
(出典:会計事務所向け経営実態白書2026年度版株式会社船井総合研究所、有効回答89件)
例えば、売上5,000万円の事務所が年間44万円を採用に使っている場合、売上に占める割合は1%未満です。
一般企業では、採用コストを売上高の5%から10%程度といわれております。
その水準と比較すると、多くの会計事務所は、そもそも採用に十分な投資をしていないと考えられます。
応募者を集めるための投資が少なければ、母数は増えません。
母数が少なければ、「自事務所で活躍する可能性が高い人」を比較して選ぶことも難しくなります。
応募者が1人、2人しかいない状態では、採用基準を満たしていなくても、「他に候補がいないから」という理由で採用してしまいがちです。
その結果、入社後に「思っていた人材と違った」「教えてもなかなか伸びない」というミスマッチが起こります。
良い人材が来ない原因を、求職者側だけに求めてはいけません。
採用への投資が少なく、そもそも良い人材と出会えるだけの応募者母数をつくれていない可能性があります。
採用力の差は、面接での見極め方ではなく、選べる状態をつくれているかどうかで生まれます。
そして、受け入れ態勢と採用が整って、初めて育成が機能します。
育成では、業務を細かく分解し、習得する順番と合格基準を明確にすることが重要です。
「月次業務を覚える」という曖昧な目標ではなく、資料整理、入力、チェック、報告と業務を分け、それぞれについて「どこまでできれば次に進めるか」を決めます。
また、早い段階で小さな成功体験をつくり、一人で完結できる仕事を少しずつ増やすことで、自信と主体性が生まれます。
未経験者が活躍する事務所の特徴は、特別な研修制度があることではありません。
長期的な成長投資として育て切る覚悟があること。
そして、ポテンシャルを見極められるだけの応募者母数を、採用投資によって確保していること。
この2つの前提があって、初めて育成の仕組みが成果につながります。
未経験者が育たないと感じたとき、研修内容だけを見直しても、根本的な解決にはなりません。

自事務所に育て切る覚悟があるか。
選べるだけの応募者を集めるために、十分な投資をしているか。
まずは、この2点から確認することが、未経験者活用を成功させる第一歩です。




