2019年02月20日

事務所を再スタートし、 5年で30名体制を築いた 次世代型社労士事務所の進化の形


事務所エントランスにて撮影(右=ソビア社会保険労務士事務所・五味田匡功氏、左=船井総研・富澤幸司)

ソビア社会保険労務士事務所(大阪府大阪市)
2008年開業。代表・五味田匡功。医療・介護に特化し開業4年で従業員20名の事務所に成長させる。2013年に方向転換し、総合事務所として再スタート。
併設する株式会社ソビアが事務局を務める一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)では、次世代企業の普及活動を行っている。顧問先は380件。グループ総勢32名

一度、20名規模の事務所を解体し、5年で新たに30名規模の事務所を再構築した、ソビア社会保険労務士事務所の五味田匡功氏。その組織の作り方、コンサルティングサービスの構築手法などは、まさに白眉のものだ。
同時展開している「ホワイト財団」の活動模様とともに、同事務所の取り組みをリポートする。
※聞き手・株式会社船井総合研究所 富澤幸司

「なんとなく」のニーズに「非士業系の人材」が応える

―現在の職員数は何名ですか?
32名です。実は、弊事務所は5年前に1度解散し、屋号を変えてリスタートしています。それまでは、介護や医療に専門特化した事務所でしたが、組織の壁にぶつかり総合型の事務所として作り直しました。

―そこから5年間で30名規模の事務所に成長しているのですね。どのようにやり直したのでしょうか?
ゼロリセットと言っても、人数は3名で再スタートしています。しかし、事務所の方向性や在り方は、一から作り直しています。現在のソビア社会保険労務士事務所は、人事・労務に関する漠然としたニーズがあったときに弊事務所が選ばれるように、ブランディングを行い、業務体制を再構築しています。そうした「なんとなく」のニーズに応えられるのが、弊事務所の特徴です。

―具体的にはどのようなことでしょうか。専門特化せず、メニューを多くするというようなことですか?
そうですね。業務体制は、お客様の事業規模や業種、業態にとらわれずに、どのような企業の仕事でも受けられるようにしています。人事・労務に関することであれば、総じて何でも相談していただけるようなブランディングを徹底し、それに対応した体制を整えることに終始して、事務所づくりを行っています。
ですから集客はWebではなく、会計事務所や異業種などと連携して紹介していただける枠組みを構築しています。

―具体的には、どのようなサービスを行っていますか?
私たちは「総合顧問サービス」という名称で、3つのステップで顧問先のご支援を行っています。一つ目は労務環境の整備。主なターゲットは50人未満の企業です。次に50人を超える企業には人事制度の整備を行います。企業が300人を超えて人事制度が整ってくると、次のステップで働き方改革や生産性向上のためのコンサルティングサービスを提供していきます。お客様の段階に応じて、こうしたサービスを提供できなければ、社労士事務所では順番に提供するサービスがなくなっていきます。弊事務所では規模を問わずに、どのステージのお客様にも提供するサービスがあります。

―上流から下流まで。特に大企業向けの人事・労務を行えることが他事務所との差別化となりますね。
そうですね。基本的にどのような業種や業態、規模の企業の仕事でも受けることができます。それで、どのようなニーズにも対応できるというブランディングができるのです。

―しかし、そうした幅の広いサービスを提供するためには、相応の人材や体制、規模が必要になってくると思います。
その点は、マニュアルを作成し業務を平準化しながら、「非士業系の人材」を採用していくことで対応しています。一般的に「士業系の人材」は放っておいても職能が上がります。そうした人材が、士業の業界内では良い人材だと言われますが、それが果たして良い人材なのでしょうか。その点への疑問から、私たちは再出発しています。
私は明確にそうではないと考えています。私たちは、非士業系の人材が集まり、世の中を変えていこうという先進的な取り組みをしている企業であり組織です。社労士事務所は、その傍らで行っている仕事だと明確に位置付けています。
結果として、それでうまくいくかどうか分かりませんが、士業系の人材を集めるのではなく、非士業系の人材に教育をし、仕組み化していくことに舵を切って、体制を整えています。

ソビア社会保険労務士事務所・五味田匡功氏
取材中の五味田氏

「次世代企業」を普及させる活動として

―5年間で30名を超える成長を見れば、結果は出ているように思います。
いえ、そうとは言えません。私は、社労士業界で大きい小さいと言うのはないと考えています。
そうではなく、業法を超えた領域で、どのくらいの専門性やノウハウを蓄積しているか、そしてそれでお客様に対して具体的なインパクトを残すことができるかが重要だと思っています。

―なるほど。そして、そうした取り組みの一つが、一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)の活動ということですね。
はい。2015年に財団を設立し、私は代表理事として次世代企業の普及活動を行っています。事務局はグループに併設する株式会社ソビアです。
私は、そもそも社労士事務所の枠内で戦っておらず、今はホワイト財団に軸足を置きながら、社労士事務所の経営を行っています。職員も、社労士事務所で働きたいと考えているメンバーではなく、ホワイト財団の事業に共感して入所したメンバーがほとんどです。

―ホワイト財団で行っている活動が、「ホワイト企業」の認定ですね。
はい。一連の働き方改革に対し、財団では次世代に残すべき優良な企業をホワイト企業と定義し、その審査と認定を行っています。仕組みはPマーク(プライバシーマーク)の取得をイメージしていただければ分かりやすいと思います。ホワイト企業版では、法令遵守、ビジネスモデル、ワークライフバランス、働きがいなど6つのカテゴリー、60項目で企業を審査します。そして項目の6割で基準を満たせばホワイト企業として認定しています。
―審査はどのように行っていますか?
まず企業にWeb上の質問に回答していただきます。その回答結果を企業にお伝えし、合わせて決算書、就業規則、雇用契約書などの資料をご提出いただきます。回答状況と実態を比較しながら審査し、ホワイト企業の条件が満たされているかどうかを確認します。

―審査費用はどのくらいかかりますか?
認定まですべて無料です。料金は1年後に、認定を更新する際に15万円が発生しますホワイト企業に認定されると認定書を発行し(写真)、さらに認定企業のインタビュー記事もWebで作成します。これらも全て無料です。料金は1年後に、認定を更新する際にときに15万円が発生します

一般財団法人日本次世代企業普及機構(JWS)が発行するホワイト企業に認定書
一般財団法人日本次世代企業普及機構(JWS)が発行するホワイト企業に認定書

―現在、どのくらいの認定企業がありますか?
今120社です。

―どのように企業を集めていますか?
毎年、財団ではホワイト企業を表彰するイベントとして『ホワイト企業アワード』を開催しています。アワードで応募企業を募る時に、応募と同時に審査を受けて認定を受ける企業がもっとも多くなっています。アワードは今回で4回目です。前回のアワードでは877社が集まり、27社を表彰させていただきました。

―アワード受賞企業は、どのような流れで決まるのですか?
審査は、Web上での一次審査、二次審査の書類審査、ヒアリングを行う三次審査の流れで行っています。一次審査の得点と、書類審査、ヒアリングの内容を精査して、その企業の取り組みが他の企業の参考になるかどうかという指標の下に表彰企業を選んでいます。
私たちは、ホワイト企業を認定することが目的ではなく、あくまでも次世代企業を普及推進させるための組織です。ですから、表彰するのは、ビジネスモデルに優れ、生産性が高く、多様な人材を受け入れる制度があり、教育が行き届き、ワークライフバランスが取れていて、時間と場所にこだわらない働き方ができるという企業です。そうした次世代に残すべき企業を普及させていくという目的で、アワードを行っています。

所内の様子
所内の様子

「雰囲気コンサル」と「三休さん方式」がコンサルティングの味噌

―そのホワイト財団での活動を、社労士事務所のサービスに活かしたものが「働き方コンサルティング」サービスですね。
はい。弊事務所には、ホワイト財団で認定を行う中で、次世代企業の優れた働き方改革のノウハウが集まります。そうした蓄積を活かして、社労士事務所で働き方コンサルティングを提供しています。

―各企業では、どのような取り組みを行っていますか?
 例えば、お子さんが病気になったときに、年に5日まで休暇を取得できる看護休暇制度があります。ポイントは取得した休暇が有給であること。法律さえ遵守していれば良いという企業からすれば、こうしたことは思いもつかないものだと思います。大企業では、こうした法律上は無給のものを有給にする制度を、設けているケースが多くなっています。
ほかにも、転職活動で他企業から得た自分の市場価値を給与交渉に使用できる人事制度などもありました。こうしたユニークで優れた制度の事例が、多く弊事務所に集まります。

―そうして得たノウハウを、どのようにお客様に提供しているのですか?
弊事務所で行っているコンサルティングは、持ち帰りをしない(その場で解決に導く)ことと、「雰囲気コンサル」を前提にしています。これらも士業発想ではありません。
私は、アセスメントツールと、解決策をセットにして各ツールを作成し、そのツールでコンサルティングを行っています。アセスメントツールとは、前述のホワイト企業認定の審査項目であり、解決策とは、ホワイト企業の事例です。他社事例が、コンサルティング先を問題解決へ導くようにツールを作り込んでいるのです。

―どのようなことでしょうか?
コンサルタントは、解決策を指し示すのではなく、解決策のヒントとなる他社事例をお伝えすればいいのです。それで、相手に一定の能力があれば、それがヒントとなり、勝手に解決策をひらめきます。もちろん、そうなるように提供する情報量を調整するなどツールを作りこむ必要があります。これで、「雰囲気コンサル」が成立します。私はこうしたソリューションの出し方を、アニメの一休さんのパロディとして「三休さん方式」と名付けています(笑)。

―なるほど。一休さん(コンサルタント)ではなく、相手にひらめかせることでコンサルの能力が不問になるということですね。
はい。コンサルでは提案や解決策をパッケージ化し過ぎると、受け手は窮屈に感じるようになります。こちらが押し付けたものではなく、自分で思いついた考えなら、自分で勝手に動き出すようになります。結果、私たちは課題を持ち帰ることもなくなります。こうしたことは、専門性を前提としていないからできるサービスだと思います。

―以前は、そうではありませんでしたか?
はい。リスタート前は「超」が付くほど専門性を押し出していました。組織も非常に属人的で、専門性の高い人材を何人集めるかという旧来型の士業の考えで事務所を作ってきました。
しかし、私はそれで20人の壁を超えられませんでしたので、ゼロリセットして、今にいたっています。組織ができておらず、単発の仕事が中心で、人材が事務所を支える構造になっていれば、土台になっている人材の負担が上がっていきます。そうして人材が事務所を辞めていきます。以前の事務所はそれが続いたために解散させました。
今は、専門性のない時点でも仕事のできる仕組みになっており、専門性が付いていけばより活躍できるという構造になっています。
非士業系の人材で、単発の仕事に頼らずしっかりと収益を出していく。そうした組織として強じんな仕組みになっています。

―やり直すという決断をすることもすごいですが、まったく性質の異なる事務所を作り上げていることもすごいですよね。
私がもともと、士業にこだわりがなかったのがよかったのだと思います。それに、同じやり方を繰り返しても、決してうまくいきませんので。

―最後に、今後の展望を教えてください。
働き方改革や働き方コンサルには、まだまだニーズがあります。社労士業界がシュリンクしていくことを前提に、ニーズのあるうちにシェアを広げて、それを糧にまた新しいサービスを作り、やがて完全に事業をスライドさせていければと思っています。

―何度でも変化をする、ということですね。本日はありがとうございました。

富澤幸司
取材中の富澤幸司

働き方改革セミナー

「マーケティング 」カテゴリの関連記事