2021年04月28日

士業横断の分野・業種特化事務所が勝ち残る

こんにちは。法律事務所を中心に士業事務所のグループ経営を研究している鈴木圭介です。

ワンストップサービスの理想を掲げるも相乗効果を出すことが難しい?

以前からワンストップサービスを目指されている事務所は全国に多く存在し、サービスを提供されていますが、窓口が一つとなり、顧客サイドにたった場合にシームレスなサービスを提供できている事務所はまだまだ少なく、特にスピードや提案の幅において改善の余地が多くございました。また弁護士を中心に生産性や風土の観点から連携し難い、連携をしてもあまり機能しないといった事情もあり、ワンストップサービスのニーズはあるものの、拡がり方は緩やかな状況でした。

顧客志向・顧客ニーズから逆算した事務所が伸びている

事務所の大型化・組織化が進み、競争がより激しくなり、各市場において寡占化が進みつつある現在、個人分野・法人分野共に士業の資格単位での総合型事務所よりも、ニーズ単位での特化型事務所の業績が伸びています。この流れは顧客ニーズに合わせて、分野特化・業種特化戦略を取る延長上に位置する戦略です。例えば労務問題への対応においては、手続き業務・紛争業務・労務アドバイス業務といった業務が発生しますが、社会保険労務士の方の得意領域と弁護士の方の得意領域が異なる為、日常的に労務アドバイスをしている先生とは別の先生に事情を説明・共有するといった流れになりますが、ここで問題・課題となるのは、本来防げた紛争が防げないケースや顧客サイドの金銭面・労力面でのコストが大きくなってしまうという点です。事業承継分野においても、各士業の専門領域からのアドバイスでは顧客サイドに立つと不十分であったり、本来の目的が達成できないというケースも少なくありません。登記業務・紛争業務・税務業務が発生する相続も分かり易い分野です。顧客サイドにとって不十分であるということは、チャンスがそれだけ大きいということですので今後の戦略の選択肢に入れて頂きたいと思います。

ワンストップサービス型事務所を作るポイントは分野・業種特化で、かつ横断的な顧客窓口を作ること

今まで様々なワンストップサービスに取り組まれている事務所様を見させて頂きましたが、前提として大事になるのが「集客力」が上がり、士業サイドの効率が改善されなくとも、トータルで見た場合に収益に寄与するかどうかという点です。現在、集客力が上がっている戦略の例は、分野もしくは業種に特化したサービスを展開されているパターンです。前述でもご紹介をさせて頂いたように顧客サイドからすると単一士業のサービスでは不十分な点が顕在化しているためです。企業法務の分野ではこの3年ライフサイクルが進み、医療機関特化やIT企業特化、建設業特化等々、業種・業態への特化サービスに取り組む事務所が増えており、特化していない事務所との専門性の差は広がりつつあり、顧客満足度の面でも差が広がりつつあります。顧客サイドから見た場合に業種特化で士業横断のワンストップサービスというのは分かり易いため「集客力」を高めることができます。士業のサービス自体は情報の非対称性が高い為「総合窓口業務担当者」を設置することで顧客サイドの満足度を高めることが可能です。ここで大事になるのは、総合窓口業務担当者を非資格者が担うという点です。総合窓口業務を最も能力の高い資格者が行うというケースが多いですが、生産性が合わないため、辞めてしまうというケースは少なくありません。総合窓口業務担当者は、士業横断的な知識が必要になりますが、実務を深く理解するよりも広く理解することが重要となります。事務所サイドに立ち業務を伝えていくのではなく、顧客サイドに立ち、業務全体を俯瞰しながら各業務担当者への説明と調整を進めていくという役目となります。「ここは専門外ですので分かりません、ここからは別士業の担当者に聞いて下さい」といったようなたらい回しに近いような状況をゼロにするという機能を持たせることが重要となります。総合窓口業務を高いレベルで実現するというのは分野・業種特化型のワンストップサービスを提供する上で最重要とも言える機能となります。

業務毎での生産性の差、評価の差をどうやって埋めるか?

本テーマについては長くなってしまうため、本コラムでは大枠の説明とさせて頂きます。業法の関係もあり士業毎で独立収支をしているケースが多いですが、その独立収支自体がワンストップサービスの実現においては障壁になるケースが多いです。グループ横断で収支(全体収支)を評価する機関を作ることが有効です。生産性評価においても、全体での収益を評価しつつ、各自の生産性を評価するこということが重要になります。あるワンストップサービスに成功している事務所のマネジメント方式ですが、グループ全体のバックオフィス業務及び集客業務に特化した会社を設立し、業務の状況に応じて各士業事務所が負担する金額を調整するというパターンです。オーソドックスな手法ですが、各士業事務所の業務の状況に応じて評価制度との連動が上手にできているというケースは多くありません。業務単位の生産性を評価に直結させないということがマネジメントの観点ではポイントとなります。他業界に比べると業法上の注意が必要ですが、グループ全体で収支評価をする比率と各業務での収支評価をハイブリッドで行うことが重要となります。

既存業務の改善による競争には限界がある

技術力を高め、合わせてテクノロジーを活用することで既存業務の改善を図ることは十分に可能ですが、他の事務所様も同様に改善を図りますので、結果として大きな差は生まれにくいです。既存業務の改善をしつつも、既存業務では提供できていない付加価値(角度を変えた価値)を提供する方が事務所を伸ばし易いです。是非、真のワンストップサービスの実現に取り組んで頂きたいと思います。

【この記事を書いたコンサルタント】

シニア経営コンサルタント 鈴木 圭介(すずき けいすけ)

2007年船井総合研究所 入社。2012年チームリーダー昇格。2016年グループマネージャー昇格。 法律事務所向けコンサルティンググループにおけるグループマネージャー。 全国で120以上の法律事務所が会員として参加されている法律事務所経営研究会主宰。 実務に精通した提案は弁護士会からも評価されており、2015年に開催された第19回弁護士業務改革シンポジウム第三部会においてパネリストを務め、福岡県弁護士会「木曜会」、岡山弁護士会においても講演実績を持つ。マーケティングに関するコンサルティングのみならず、受任率の向上や業務効率の向上、パートナー制度に伴う評価制度の構築に関するコンサルティングも行っている。

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